税務・確定申告
役員報酬の減額は自由にできない?定期同額のルールと減額できる3つのケースを解説
結論:役員報酬の減額自体が税法で禁止されているわけではありません。ただし、法人税上の損金算入には定期同額給与などの要件があります。毎月の報酬を改定する場合は、通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由のいずれに該当するかを確認します。
要件外の減額では、減額前に支給した報酬の一部が損金不算入となることがあります。「報酬額の減額」と「報酬を未払いにすること」は分けて検討しましょう。
経営状況や資金繰りの変化により、役員報酬を減らして会社の資金を確保したいと考える経営者の方は少なくありません。
重要なのは、報酬変更に必要な決議・手続きと、法人税上の損金算入要件を分けて確認することです。株主総会等で減額を決議しただけで、税務上も必ず損金算入できるわけではありません。
本記事では、減額改定が認められる主な3つのケース、要件外の減額による損金不算入、未払報酬の源泉徴収を整理します。
役員報酬の基本ルール「定期同額給与」とは?
定期同額給与とは、原則として、1か月以下の一定の期間ごとに支給する給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものをいいます。毎月支給する役員報酬が代表例です。
税法上認められる改定がある場合は、改定の前後で当該事業年度の期間を区分し、それぞれの期間の各支給時期における支給額が同額かを判定します。期中に金額が変われば一律に損金不算入になる、という仕組みではありません。
なお、定期同額給与に該当しても、不相当に高額な部分などは別途損金不算入となります。国税庁「役員に対する給与」をご参照ください。
定期同額のまま減額できる場合3選
毎月の役員報酬を減額する場合は、法人税法施行令第69条第1項第1号に規定する次の改定に該当するかを確認します。改定事由だけでなく、改定時期・改定前後の支給額・決議内容も確認が必要です。
1. 通常改定(原則として会計期間開始から3か月以内)
通常改定は、原則として会計期間開始の日から3か月を経過する日までに行う定期給与の額の改定です。定時株主総会等で、前期の実績と当期の見通しを踏まえて増額・減額を検討します。
改定後から新たに1年間、同額にするという意味ではありません。当該事業年度の改定前と改定後の各期間について、各支給時期の金額が同額であるかを判定します。
毎年所定の時期に行う改定が3か月経過後となることに特別の事情がある場合など、通常改定の期限には例外があります。個別の事情と税法上の要件を確認してください。
2. 役員の職制上の地位の変更(臨時改定事由)
役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更、その他これらに類するやむを得ない事情による改定は、臨時改定事由に該当し得ます。
代表取締役の退任などにより、職制上の地位や職務の実態が変わった場合
病気による入院等により、従前の職務の全部または一部を行えなくなった場合
合併等により、担当する職務内容が大きく変わった場合
名称だけを変更すれば足りるわけではありません。職制上の地位・職務の実態、変更理由と時期を確認し、報酬改定との関係が説明できる資料を残します。
3. 経営状況の著しい悪化(業績悪化改定事由)
経営状況が著しく悪化したこと、その他これに類する理由による減額改定が対象です。株主・債権者・取引先との関係上、役員報酬を減額せざるを得ない客観的な事情があるかを確認します。
例えば、経営悪化に伴う銀行との返済条件変更の協議で、経営改善計画の一環として役員報酬の減額を求められた場合などです。減額決議があるだけで要件を満たすものではありません。
一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標に達しなかったことは含まれません。月次試算表、資金繰り表、金融機関との協議記録、経営改善計画など、減額が必要となった事情を裏付ける資料を保存します。
根拠:法人税基本通達9-2-13。
業績悪化改定事由に当たる例・当たらない例
国税庁「役員給与に関するQ&A」は、業績悪化改定事由を「財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したことだけではなく、経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情」があれば含まれる、と説明しています。判断の軸は「減額せざるを得ない客観的な事情を具体的に説明できるか」です。
業績悪化改定事由に当たる例(国税庁「役員給与に関するQ&A」Q1・Q1-2)
株主との関係上、業績・財務状況の悪化についての経営上の責任から減額せざるを得ない場合(同族会社では、客観的かつ特別の事情を具体的に説明できる資料が必要)
取引銀行との借入金返済のリスケジュール協議で、減額せざるを得ない場合
業績・財務状況・資金繰りの悪化により、取引先等からの信用を維持するための経営改善計画を策定し、減額が盛り込まれた場合(計画は、利害関係者から求めがあれば開示できるもの)
主要な得意先の不渡りなど客観的な状況から、数か月後の売上激減が不可避と認められ、減額を含む経営改善計画を策定した場合(現時点で数値がまだ悪化していなくても該当し得る)
主力製品の瑕疵が判明し、多額の損害賠償金やリコール費用の支出が避けられない場合
業績悪化改定事由に当たらない例(法人税基本通達9-2-13、国税庁Q&A)
一時的な資金繰りの都合
単に業績目標値に達しなかったこと
利益調整のみを目的とする減額
客観的な状況がない、単なる将来の見込みによる減額
減額できる金額に、法人税法上の「限度」は定められていません。問われるのは、改定事由に該当するかと、改定後の各支給時期の支給額が同額に保たれているかです。同族会社では、役員と株主が重なるため「株主との関係上」の事情が認められにくく、試算表・資金繰り表・金融機関との協議記録・経営改善計画など、減額せざるを得なかった事情を示す資料をそろえておきます。
なお、事前確定届出給与の減額(変更届)における業績悪化改定事由も、同じ考え方で判定されます(Q&A(注))。
減額の手続き:決議・議事録・適用開始日の残し方
税務上の要件とは別に、会社法上の手続きも必要です。順番は次のとおりです。
参考:国税庁「役員給与に関するQ&A」Q1・Q1-2(PDF)/国税庁「No.5211 役員に対する給与」/会社法361条・318条・369条(e-Gov法令検索)/日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
期中の減額・未払い・復元で注意すること
要件外の減額では、どの金額が損金不算入になるのか
国税庁の「役員給与に関するQ&A」Q4では、通常改定の時期などを踏まえて判定期間を区分し、減額前に支給した給与のうち、減額後の月額を超える部分を損金不算入としています。減額後に支払わなかった金額を、そのまま損金不算入にするという意味ではありません。対象期間・金額は、通常改定の時期や実際の支給経過に応じて計算します。
月別図解:月額50万円から40万円へ減額した場合
3月決算・毎月20日支給の架空例です。金額は控除前の支給額で、不相当に高額な部分など、定期同額給与以外の損金不算入事由はないものとします。
例2の月別明細を表で確認する
| 月 | 支給額 | 損金算入 | 損金不算入 |
|---|---|---|---|
| 4月 | 50 | 50 | 0 |
| 5月 | 50 | 50 | 0 |
| 6月 | 50 | 40 | 10 |
| 7月 | 50 | 40 | 10 |
| 8月 | 50 | 40 | 10 |
| 9月 | 50 | 40 | 10 |
| 10月 | 50 | 40 | 10 |
| 11月 | 50 | 40 | 10 |
| 12月 | 40 | 40 | 0 |
| 1月 | 40 | 40 | 0 |
| 2月 | 40 | 40 | 0 |
| 3月 | 40 | 40 | 0 |
| 合計 | 560 | 500 | 60 |
計算するのは、減額前に支給した給与のうち対象期間の超過部分です。通常改定の時期や支給経過が違えば、対象月も変わります。「期首からすべて」「減額後に支払わなかった分」と一律に計算するものではありません。
根拠:国税庁「No.5211 役員に対する給与」、国税庁「役員給与に関するQ&A」Q4。例1は通常改定の説明用、例2はQ4の前提・金額に沿った図解です。
未払報酬の源泉徴収は、原則として実際の支払時
通常の月額報酬については、支給日に未払いであれば、原則としてその時点では源泉徴収を行わず、実際に支払う時に行います。一部を支払う場合は、給与全額に対応する源泉徴収税額を、支払額の割合で按分します。
ただし、役員賞与は、支払が確定した日から1年を経過しても未払いの場合、その時点で支払があったものとみなされる例外があります。
報酬額を変えずに支払を延期することと、報酬額そのものを減額することは別です。未払計上しただけで損金算入が保証されるわけではなく、債務の確定や支給実態も確認します。既に確定した未払報酬の債権放棄は、将来分の減額とは異なり、債務免除時の源泉徴収の取扱いを別途確認する必要があります。
病気による減額後の復元は、一律に否認されるわけではありません
国税庁Q&AのQ5では、病気による入院で職務の一部を行えなくなった際の減額と、従前と同様の職務に復帰した際の復元は、いずれも臨時改定事由による改定とされています。単に一時的な資金繰りの都合で減額し、資金繰りが改善したら戻す場合とは区別します。
参考:国税庁「役員給与に関するQ&A」Q4・Q5(PDF)/国税庁「給与が一部未払の場合の源泉徴収」/所得税基本通達181~223共-1・共-2。
役員報酬の設定はどうすればいいか?計画策定の重要性
役員報酬は、個人の所得税・住民税・社会保険料と、会社の法人税等・社会保険料に加え、会社と個人それぞれの資金繰りを踏まえて設定します。
税負担だけで決めず、月次の利益計画と資金計画を作成し、売上の下振れ、借入金返済、納税なども見込んで、継続して支給できる金額かを確認することが重要です。
期中の変更が必要になったときは、将来分の報酬額を改定するのか、確定済みの報酬の支払を延期するのかを明確にし、法人税と源泉所得税の取扱いをそれぞれ検討します。
役員に賞与を支給する場合は、毎月の定期同額給与とは別に、事前確定届出給与の届出期限と支給条件を確認する必要があります。詳しくは「役員賞与を損金にする事前確定届出給与とは?」をご覧ください。
次期の金額を検討する方へ:次期の役員報酬・役員賞与を決める前に確認することでは、利益・資金繰り・個人の手取りと、相談に用意する資料を整理しています。
FAQ
役員報酬を期の途中で減額すると、全額が損金不算入になりますか?
必ずしも全額ではありません。定期同額給与の要件を満たす改定かを確認し、満たさない場合は支給経過に応じて損金不算入額を計算します。国税庁Q&Aの減額事例では、減額前に支給した給与のうち、減額後の月額を超える部分が対象です。
業績悪化改定事由は、どの程度の悪化なら認められますか?
一時的な資金繰りの都合や単なる業績目標の未達は含まれません。経営状況の著しい悪化などにより、株主・債権者・取引先との関係上、減額せざるを得ない客観的な事情を確認します。株主総会の減額決議だけで要件を満たすものではありません。
資金繰りが苦しく、役員報酬を未払いにした場合の源泉徴収はいつですか?
通常の月額報酬は、原則として実際に支払う時に源泉徴収します。報酬額を変えず支払を延期することと、報酬そのものを減額することは別です。役員賞与には、支払確定日から1年を経過しても未払いの場合のみなし支払の例外があります。
病気で減額した役員報酬を、復職後に元の金額へ戻せますか?
国税庁Q&Aでは、病気による入院で職務の一部を行えなくなった際の減額と、従前と同様の職務に復帰した際の復元は、いずれも臨時改定事由による改定とされています。単に資金繰りが改善したために戻す場合とは区別します。
期首から3か月以内に改定した後は、1年間同額にする必要がありますか?
改定日から新たに1年間という判定ではありません。適法な改定の前後で当該事業年度の期間を区分し、それぞれの期間の各支給時期における支給額が同額かを判定します。
役員報酬を減額するには、株主総会と取締役会のどちらの決議が必要ですか?
取締役の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で定めます(会社法361条1項)。株主総会で総額の上限を定め、各人の配分を取締役会に委ねている会社では、その枠内で取締役会決議により減額できます。いずれの場合も、改定前後の金額・適用開始日・改定事由を議事録に残してください。
役員報酬の減額に金額の限度はありますか?
法人税法上、減額幅そのものの限度は定められていません。要件は、通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由のいずれかに該当する改定であることと、改定後の各支給時期の支給額が同額であることです。業績悪化改定事由による減額では、減額せざるを得ない客観的な事情を説明できる資料が必要です。
主な根拠:法人税法第34条第1項第1号、法人税法施行令第69条第1項第1号、所得税法第183条。上記の国税庁資料に基づく一般的な説明です。個別の改定については、決議内容・支給実態・改定事由を確認して判断してください。
役員報酬の設定・減額についてのご相談
役員報酬の減額を検討する際は、決算月、通常改定の時期、現在の月額、減額理由、適用開始月を整理することが出発点です。議事録だけでなく、職務内容や経営状況の変化を裏付ける資料も確認します。
当事務所では、役員報酬の改定判断、議事録・根拠資料の整理、会社と個人の税負担・資金繰りを踏まえた報酬設定をご相談いただけます。事情に応じて、税務上の取扱いを整理します。
ご相談時に用意いただきたい資料
現在の月額と支給状況が分かる給与台帳、過去の役員報酬に関する決議の議事録
直近の決算書・月次試算表、用意されている場合は資金繰り表
変更理由に関する資料(職務内容の変更、金融機関との協議記録など)
資料が揃っていない場合は、ご相談時にその状況をお知らせください。対応範囲と料金は、ご相談内容と資料の状況を確認して事前にご案内します。
役員報酬を含む日々の会計・税務を継続して確認したい方は、税務顧問の支援内容をご覧ください。