経理・総務にAIを導入するときは、毎月・毎週繰り返す仕事の中から、入力と完成形を説明でき、人が結果を確認できる1業務を選ぶところから始めます。
「AIで何かできないか」という状態でも、最初から全社の仕組みを変える必要はありません。請求書の確認用一覧、Excelへの転記、資料依頼メールの下書きなど、担当者が時間を使っている作業を一つ取り上げます。この記事では、専任のIT担当者がいない中小企業でも、相談・試行へ進むための順番を整理します。
1.製品を決める前に、困っている作業を書き出す
まず、直近の月次業務を振り返り、何を受け取り、何を作り、誰が確認しているかを書きます。「経理を効率化したい」だけでは、改善する範囲を決めにくいためです。
| 漠然とした希望 | 最初に整理する作業の例 |
|---|---|
| 請求書処理を楽にしたい | 指定したフォルダの請求書から、取引先・請求日・金額の確認用一覧を作る |
| Excelの集計を早くしたい | 各営業所の売上表を共通の列へそろえ、営業所別・品目別に集計する |
| メール作成を減らしたい | 不足資料の一覧をもとに、担当者が送信前に確認する依頼文を作る |
ここでは、支払実行、会計登録、取引先への送信までを一度に含めません。それぞれ確認・承認が必要な別の工程として扱い、最初の業務の完了地点を明確にします。
IPAはAIの活用例として、会議録作成・要約、文書作成・確認などを挙げています。ただし、例に挙がる仕事がそのまま自社に合うとは限りません。実際の資料と確認方法まで具体化して選びます。
2.最初の1業務は、4つの観点で比べる
候補を二つか三つ挙げ、次の表を埋めます。この比較表は、当事務所が導入時の整理に使う考え方の例です。点数による自動判定や、導入効果を保証する基準ではありません。
| 観点 | 確認すること | 始めやすい状態の例 |
|---|---|---|
| 繰り返し | いつ、何回発生しているか | 毎月同じ締め作業がある |
| 入力と出力 | 資料の種類と完成形を示せるか | 入力元の表と、必要な集計表の見本がある |
| 確認のしやすさ | 誤りや不足を人が見つけられるか | 元の行や請求書へ戻って照合できる |
| 情報と担当 | 取扱条件と確認する人を決められるか | 会社が承認した環境と担当者がある |
負担が大きい仕事でも、完成形が毎回変わる、元資料が見つからない、確認する人がいない場合は、先に手順を整理します。反対に、一度に扱う量が少なくても、毎月繰り返し、確認しやすい仕事なら試行の対象にできます。
作業の具体例を広く見たい方は、経理・総務で使える生成AIの具体例7つをご覧ください。
3.AIに任せる範囲と、人が決めることを分ける
例えば請求書の一覧作成なら、AIには項目の抽出と整理を依頼し、読めない箇所や重複の候補は「要確認」として残します。担当者は原本との照合、対象期間、取引内容、重複の有無などを確認します。
| 工程 | 最初に決めること |
|---|---|
| 資料を用意する | 対象期間、保存先、ファイル名、対象外にする資料 |
| 一覧・下書きを作る | 必要な列、順番、空欄や不明点の表示方法 |
| 確認する | 原本へ戻る方法、合計の検算、確認者 |
| 完了・保存する | 承認後の保存先と、未確認事項の引継ぎ先 |
「分からないところを推測で埋める」指示は避け、空欄・読取り不明・判断待ちを区別して残せるようにします。数字を整えた一覧ができても、税務判断や支払の承認が完了したことにはなりません。
入力する情報の取扱いは、会社の承認に加え、契約や利用サービスの条件などを確認して決めます。詳しくは経理で生成AIを使う前に決める社内ルールで整理しています。
4.少量の資料で、通常と例外の両方を試す
試行前に、何ができれば次へ進むかを決めます。「きれいな表ができた」だけで終わらせず、担当者が照合し、未確認事項を処理できるかまで見ます。
最初は架空データや、利用条件を確認した試行用資料を使います。実際の資料を使う場合は、入力の可否を先に確認します。この記事から資料を送信・アップロードする必要はありません。
- 通常の資料で、必要な項目がそろうか。
- 項目が空欄の資料を、勝手に補完せず残せるか。
- 似た明細や重複候補を、担当者が判断できる形で示せるか。
- 読取りにくい資料や対象外の資料で、処理を止めて確認へ回せるか。
- 元の資料や行番号へ戻り、件数・合計を検算できるか。
当事務所の初期導入では、通常・例外を含む代表10ケースを事前に合意して試します。これは標準パッケージの検証範囲であり、あらゆる資料に対する精度の保証や、運用できる件数の上限ではありません。
5.担当者が使うところまでを導入の範囲にする
試作品が動いたら、実際の担当者が自分で操作します。支援者が隣で操作を代わるのではなく、入力資料の準備から確認・保存まで、手順に沿って進められるかを見ます。
| 残すもの | 担当者が確認できること |
|---|---|
| 業務フロー・分担表 | どこから始め、誰の確認で終わるか |
| 指示・出力のひな形 | 何を入力し、どの様式で出すか |
| 確認チェックリスト | 原本、件数、合計、不明点をどう確認するか |
| 操作マニュアル | 保存先、操作順、止まったときの連絡先 |
支援終了後も会社が使えるアカウント・権限・保存先にしておくことも、引継ぎの一部です。導入後に使われなくなっている場合は、AIの引継ぎと定着を見直す記事も参考になります。
6.相談前に用意するのは、作業の概要と完成形の見本
相談の段階では、機密資料そのものを送る必要はありません。次の項目が分かれば、対象を絞る話がしやすくなります。
- 困っている業務と、発生する頻度。
- 現在の入力元と、作っている表・文書の種類。
- 作業と確認にかかる時間の目安。
- 実際に操作する人と、確認する人。
- どこまでできれば助かるか、いつから使いたいか。
Excel集計を候補にする方は、架空の3営業所データを使った転記・月次集計の実演をご覧ください。試行後の比べ方は、AI導入の費用対効果の測り方で紹介しています。
当事務所では、経理・総務の1業務を対象に、作業の整理、ひな形作成、検証、担当者への引継ぎを支援します。手元に残る成果物の見本と料金・標準範囲を確認いただけます。
よくあるご質問
AIに詳しい社員がいなくても始められますか?
現在の作業を説明できる担当者と、結果を確認する人がいれば、対象業務を整理するところから始められます。利用環境や権限を決める際は、必要に応じてシステムの管理者にも参加してもらいます。
最初に会社全体へAIを入れるべきですか?
最初は1部署・1業務で、資料の範囲と完成形を決めて試す方法があります。確認時間や例外対応も含めて結果を見たうえで、他の業務へ広げるかを判断します。
整理されていない紙の資料でも相談できますか?
相談できます。まず資料の種類・量・所在を確認し、整理を先に行うか、対象を絞って試すかを決めます。どのような紙でも自動で正確に読み取れるという前提では進めません。
初回相談で実際の請求書を送る必要がありますか?
最初は業務の概要と、入力元・必要な出力の説明だけでも構いません。原資料が必要になった場合は、取扱条件と共有方法をご案内してから確認します。
参考資料
- IPA「AIの利活用、AIによるDXの推進」。
- デジタル庁「行政における生成AIの適切な利活用に向けた技術検証」。具体的な業務を対象に、利用方法と改善効果を検証した公表資料です。本記事の比較表・進め方は当事務所による説明例です。