公認会計士のAI活用ノート #1

AIを使った監査効率化|監査調書のロールフォワードをAIに任せてみた

公開日:2026年8月24日

前期のExcel調書をコピーし、年度を更新し、当期資料の数値へ差し替え、前年度コメントを当期の内容に直す。監査調書の準備は、一つひとつは難しくなくても、本数が増えると大きな作業になります。現在、この定型部分のかなりを、フォルダを直接扱えるエージェント型AIに任せています。

私は監査法人で、監査調書を作成し、レビューする実務を経験してきました。AIを使うようになって変わったのは、主に調書作成です。監査上の判断や裏付けの確認は、今も人が担います。

Finderで対象フォルダを指定する

まず、案件ごとに前期調書、当期のPBC資料、作業中の当期調書を整理します。そのうえで、Finderから対象フォルダを選び、AIの作業対象として指定します。チャットへファイルを一つずつ貼るのではなく、フォルダの中を見ながら作業させるイメージです。

Finderで監査調書の対象フォルダを選びAIへ作業対象として指定する流れ
Finderで対象フォルダを選び、AIの作業対象に指定してから、指示ファイルを読ませて実行します。図中の名称はすべてダミーです。

ロールフォワードのルールをMarkdownに書く

最初から思いどおりに動いたわけではありません。AIがフォントや列幅を変えたり、前年度コメントをそのまま残したりすることもありました。そこで、失敗するたびに指示を見直し、案件フォルダ内のMarkdownファイルへルールを少しずつ追加しました。

監査調書のロールフォワードをAIへ指示するMarkdownファイルの例
ロールフォワード用Markdownの見本。年度更新、当期コメントへの更新、要確認箇所の残し方などを明示します。
# 監査調書ロールフォワード指示

- 2024年3月期と2025年3月期の比較を、
  2025年3月期と2026年3月期へ更新する
- 当期PBC資料を参照して数値を更新する
- 前年度コメントはそのまま転記せず、
  当期数値に基づく増減コメントへ更新する
- 人の目で確認が必要なセルは蛍光黄色で網掛けし、
  「要確認事項」に記載する
- 判断が必要な箇所は勝手に処理しない
- 数式・書式・列幅・行高は変更しない
黄色の網掛けは「更新済み」ではなく「人の確認が必要」という印です。 AIが判断を保留した箇所や、裏付けを人が確認すべき箇所だけを蛍光黄色にし、同じ内容を「要確認事項」に一覧化します。

比較年度と増減コメントを当期用へ更新する

ロールフォワードでは、単にファイル名の「2025」を「2026」へ変えるだけではありません。比較列を「2024年3月期/2025年3月期」から「2025年3月期/2026年3月期」へ繰り越し、当期数値を反映し、増減コメントも当期の状況に合わせて作り直します。

監査調書のロールフォワード前後と要確認箇所の黄色網掛け
黄色のセルは、人の目で確認する対象です。AIは確認事項を残し、担当者が資料へ当たって判断します。図中の数値・コメントはすべてダミーです。

複数の監査先は夜間バッチでまとめて処理できる

監査法人のように複数の監査先を持つ組織では、フォルダ構成と指示ファイルを標準化することで、これまでAA(Audit Assistant)へ依頼していた定型的なロールフォワード作業を、複数クライアントまとめて夜間バッチで処理する設計も可能です。

夕方に処理を開始し、翌朝はロールフォワード済みの調書、処理ログ、要確認事項を担当者が確認します。単純作業を夜間へ移し、日中は確認と監査判断へ時間を使う考え方です。

複数クライアントの監査調書をAIの夜間バッチでロールフォワードする流れ
複数クライアントを一括処理する場合も、AIが最終判断をするのではなく、翌朝に担当者が要確認事項と処理結果を確認します。

フォルダ構成を標準化

前期調書、当期PBC資料、作業中、完成版の置き場所を統一します。

共通ルールと個別ルール

全案件共通の書式ルールと、クライアント固有の判断基準を分けて管理します。

少数案件から検証

まず数件で結果と処理ログを確認し、問題がない範囲から対象を広げます。

AIに任せる部分と、人が判断する部分

AIに任せる定型作業

  • 前期調書のコピーと年度更新
  • 当期資料からの数値差し替え
  • 増減コメントのドラフト作成
  • 要確認セルの黄色網掛け
  • 要確認事項と処理ログの一覧化

人が確認・判断する事項

  • 増減理由と証憑の整合性
  • 監査上の重要性
  • 追加手続の要否
  • 監査証拠としての十分性
  • 最終的なレビューと承認

クライアント資料の取扱いを先に決める

会計事務所や監査法人が扱う資料には、他社の内部情報が含まれます。便利だからという理由で、AIへ何でも渡してよいわけではありません。

  • 利用契約、保存期間、学習利用の取扱いを確認する
  • 案件フォルダのアクセス権限を必要最小限にする
  • マイナンバー、口座番号、パスワード等は対象外とする
  • 委託元・クライアントの情報管理ルールを最優先する
  • AIの出力は必ず人が検証し、未確認の成果物は提出しない

効率化の目的は、判断に時間を使うこと

AIを導入すること自体が目的ではありません。転記や年度更新に使っていた時間を減らし、確認漏れを防ぎ、監査人が判断すべき箇所へ時間を振り向ける。その状態を作れるかどうかが重要です。

実務では、AIへ一度指示して終わりではなく、書式崩れや確認漏れを経験しながらMarkdownの指示を更新してきました。こうした試行錯誤をルールとして残すことで、個別作業から、再現性のある業務プロセスへ変わっていきます。

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会計・税務・監査の実務を理解したうえで、AIをどこまで任せ、どこを人が確認するかを整理します。

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岡田健志(公認会計士・税理士)
国税での勤務と監査法人での勤務を経て、2024年に大阪市福島区で開業。監査・税務の実務でAIを活用しています。

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岡田けんし
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