公認会計士のAI活用ノート #1
AIを使った監査効率化|監査調書のロールフォワードをAIに任せてみた
前期のExcel調書をコピーし、年度を更新し、当期資料の数値へ差し替え、前年度コメントを当期の内容に直す。監査調書の準備は、一つひとつは難しくなくても、本数が増えると大きな作業になります。現在、この定型部分のかなりを、フォルダを直接扱えるエージェント型AIに任せています。
私は監査法人で、監査調書を作成し、レビューする実務を経験してきました。AIを使うようになって変わったのは、主に調書作成です。監査上の判断や裏付けの確認は、今も人が担います。
Finderで対象フォルダを指定する
まず、案件ごとに前期調書、当期のPBC資料、作業中の当期調書を整理します。そのうえで、Finderから対象フォルダを選び、AIの作業対象として指定します。チャットへファイルを一つずつ貼るのではなく、フォルダの中を見ながら作業させるイメージです。
ロールフォワードのルールをMarkdownに書く
最初から思いどおりに動いたわけではありません。AIがフォントや列幅を変えたり、前年度コメントをそのまま残したりすることもありました。そこで、失敗するたびに指示を見直し、案件フォルダ内のMarkdownファイルへルールを少しずつ追加しました。
# 監査調書ロールフォワード指示
- 2024年3月期と2025年3月期の比較を、
2025年3月期と2026年3月期へ更新する
- 当期PBC資料を参照して数値を更新する
- 前年度コメントはそのまま転記せず、
当期数値に基づく増減コメントへ更新する
- 人の目で確認が必要なセルは蛍光黄色で網掛けし、
「要確認事項」に記載する
- 判断が必要な箇所は勝手に処理しない
- 数式・書式・列幅・行高は変更しない 比較年度と増減コメントを当期用へ更新する
ロールフォワードでは、単にファイル名の「2025」を「2026」へ変えるだけではありません。比較列を「2024年3月期/2025年3月期」から「2025年3月期/2026年3月期」へ繰り越し、当期数値を反映し、増減コメントも当期の状況に合わせて作り直します。
複数の監査先は夜間バッチでまとめて処理できる
監査法人のように複数の監査先を持つ組織では、フォルダ構成と指示ファイルを標準化することで、これまでAA(Audit Assistant)へ依頼していた定型的なロールフォワード作業を、複数クライアントまとめて夜間バッチで処理する設計も可能です。
夕方に処理を開始し、翌朝はロールフォワード済みの調書、処理ログ、要確認事項を担当者が確認します。単純作業を夜間へ移し、日中は確認と監査判断へ時間を使う考え方です。
フォルダ構成を標準化
前期調書、当期PBC資料、作業中、完成版の置き場所を統一します。
共通ルールと個別ルール
全案件共通の書式ルールと、クライアント固有の判断基準を分けて管理します。
少数案件から検証
まず数件で結果と処理ログを確認し、問題がない範囲から対象を広げます。
AIに任せる部分と、人が判断する部分
AIに任せる定型作業
- 前期調書のコピーと年度更新
- 当期資料からの数値差し替え
- 増減コメントのドラフト作成
- 要確認セルの黄色網掛け
- 要確認事項と処理ログの一覧化
人が確認・判断する事項
- 増減理由と証憑の整合性
- 監査上の重要性
- 追加手続の要否
- 監査証拠としての十分性
- 最終的なレビューと承認
クライアント資料の取扱いを先に決める
会計事務所や監査法人が扱う資料には、他社の内部情報が含まれます。便利だからという理由で、AIへ何でも渡してよいわけではありません。
- 利用契約、保存期間、学習利用の取扱いを確認する
- 案件フォルダのアクセス権限を必要最小限にする
- マイナンバー、口座番号、パスワード等は対象外とする
- 委託元・クライアントの情報管理ルールを最優先する
- AIの出力は必ず人が検証し、未確認の成果物は提出しない
効率化の目的は、判断に時間を使うこと
AIを導入すること自体が目的ではありません。転記や年度更新に使っていた時間を減らし、確認漏れを防ぎ、監査人が判断すべき箇所へ時間を振り向ける。その状態を作れるかどうかが重要です。
実務では、AIへ一度指示して終わりではなく、書式崩れや確認漏れを経験しながらMarkdownの指示を更新してきました。こうした試行錯誤をルールとして残すことで、個別作業から、再現性のある業務プロセスへ変わっていきます。
岡田健志(公認会計士・税理士)
国税での勤務と監査法人での勤務を経て、2024年に大阪市福島区で開業。監査・税務の実務でAIを活用しています。