AI・業務改善
中小企業の経理・総務で使える生成AIの具体例7つ|任せる作業と人が確認すること

生成AIを経理・総務で使うとき、効果が出やすいのは仕訳や税金の判断ではありません。資料を一覧にする、文章の下書きを作る、確認漏れの候補を挙げる、といった判断の前の準備です。
この記事では、中小企業の経理・総務で使える7つの具体例を、AIに任せる作業と人が確認することに分けて紹介します。最後に、最初に取り組む1業務の選び方と、自社で始めるときの進め方をまとめます。例に出す会社・資料・金額は架空です。
7つの具体例を一覧で見る
| No. | 業務 | AIに任せる作業 | 人が確認すること |
|---|---|---|---|
| 1 | 請求書・領収書の確認用一覧 | 取引先・日付・金額などを一覧にし、記載漏れ・重複の候補に印を付ける | 原本との照合、重複の判断、支払・会計登録の承認 |
| 2 | Excelへの転記・月次集計 | 様式の違うファイルの列を対応付け、確認が必要な行を洗い出す | 集計結果と元ファイルの合計の一致、除外した行の理由 |
| 3 | 取引先への定型メール | 資料の依頼や支払・請求の確認の文面を下書きする | 宛先・金額・期日などの事実、送信 |
| 4 | 議事録・社内文書の整理 | メモや文字起こしから、決定事項・担当・期限を整理する | 決定内容の正確さ、配布してよい範囲 |
| 5 | 経費精算の記載漏れの確認 | 社内規程の確認項目に沿って、記載漏れ・添付漏れの候補を挙げる | 規程の当てはめ、承認・差戻し |
| 6 | 社内規程・マニュアルへの質問対応 | 規程の該当箇所を探し、要約して示す | 回答の根拠となる条文、規程にない例外 |
| 7 | 月次資料の増減コメントの下書き | 会計データから出した増減表をもとに、説明文の下書きを作る | 数字の正しさ、増減理由の事実 |
どの例でも、AIが作るのは「下書き」や「候補」です。内容を確定し、外へ出すのは人です。
各例の使い方
1.請求書・領収書の確認用一覧
- 今の作業
- 届いた請求書を一枚ずつ開き、取引先・請求日・金額・支払期日を管理表へ手で写しています。
- AIで変わること
- 指定したファイルだけを対象に、決めた項目の一覧を作ります。記載がない項目は推測させずに「要確認」と書かせ、取引先・請求番号・金額が同じ資料は「重複候補」として残すよう指示しておきます。
- 人が確認すること
- 一覧と原本の照合、重複候補の扱い、合計の検算です。支払と会計ソフトへの登録は、人が確認・承認してから行います。
- 用意するもの
- 対象ファイルの保存先とファイル名のルール、一覧にする項目。
架空の請求書5枚で読取りと確認事項の整理を実演した記事は紙・Excel中心の経理を見直す、確認用一覧・確認票・操作手順の見本はAI導入支援の成果物見本でご覧いただけます。
2.Excelへの転記・月次集計
- 今の作業
- 部署や営業所から届くExcelを開き、列の名前や並びの違いを読み替えながら、月次の集計表へ写しています。
- AIで変わること
- 各ファイルの列が集計表のどの列に当たるかの対応表と、税込・税抜の混在、合計行の混入、重複、空欄など、確認が必要な行の一覧を作ります。
- 人が確認すること
- 集計そのものはExcelの式(SUMIFS関数やピボットテーブル)で行い、元ファイルの合計と一致するかを確かめます。AIが計算した数字をそのまま集計表に使わないことがポイントです。
- 用意するもの
- 集計表の完成形、元ファイルの例、例外の扱い(税込金額の換算方法、端数処理)。
3.取引先への定型メール
- 今の作業
- 資料の依頼、支払の確認、請求内容の問い合わせなど、似た文面を毎回一から書いています。
- AIで変わること
- 用件・相手・期日を伝えて下書きを作ります。よく使う文面をひな形にしておけば、担当者が替わっても言い回しがそろいます。
- 人が確認すること
- 宛先、金額、日付、期日、添付の有無です。送信は人が行い、AIから直接送らせません。
- 用意するもの
- 過去の文面の例、社内の書き方のルール。
4.議事録・社内文書の整理
- 今の作業
- 会議のメモを清書し、決まったことや担当者を後から探しています。
- AIで変わること
- メモや文字起こしから、決定事項・担当者・期限・保留事項に分けた下書きを作ります。
- 人が確認すること
- 決定内容が正しいか、発言の趣旨が変わっていないか、配布してよい範囲かを確認します。
- 用意するもの
- 議事録の様式、文字起こしの方法。録音する場合は出席者に了承を得ます。
5.経費精算の記載漏れ・添付漏れの確認
- 今の作業
- 申請書と領収書を見比べ、日付・金額・目的・参加者などの抜けを目で探しています。
- AIで変わること
- 社内規程から作った確認項目に沿って、記載漏れや添付漏れの候補を挙げます。
- 人が確認すること
- 規程の当てはめと例外の扱い、承認・差戻しの判断です。交際費かどうかといった税務上の区分も人が判断します。
- 用意するもの
- 経費精算規程、確認項目の一覧、過去に差し戻した例。
6.社内規程・マニュアルへの質問対応
- 今の作業
- 「出張の日当はいくらか」「この書類はどこに出すか」といった質問に、経理・総務の担当者が毎回答えています。
- AIで変わること
- 規程やマニュアルを参照させ、該当箇所と要約を示します。社員が自分で調べるときの入口になります。
- 人が確認すること
- 回答に根拠の条文が示されているかを確認します。規程にない例外は担当者が判断します。規程を改定したら、AIに参照させる版も差し替えます。
- 用意するもの
- 最新の規程・マニュアル、参照させる範囲、答えられない質問の問い合わせ先。
7.月次資料の増減コメントの下書き
- 今の作業
- 試算表の前月比・前年同月比を見て、増減の理由を文章にまとめています。
- AIで変わること
- 会計ソフトから出した増減表を渡し、大きく動いた科目の抽出と説明文の下書きを作ります。
- 人が確認すること
- 数字は会計データのものを使い、AIに計算させません。増減の理由は取引の事実で確かめます。売上が本当に減ったのか、計上の時期がずれただけなのかは、帳簿と資料を見なければ分かりません。
- 用意するもの
- 毎月同じ形式の増減表、説明に使う社内の情報(受注の状況、値上げ、人員の変化など)。
月次の数字の見方は会社の数字を毎月どう見る?で解説しています。
AIに任せないこと
7つの例に共通して、次の4点は人が担います。
- 会計処理・税区分・税務の判断。 仕訳の候補を作らせることはできても、どの勘定科目・税区分にするかを確定するのは人です。
- 外へ出ていく操作。 支払の実行、メールの送信、会計ソフトへの登録の確定を、AIの出力から直接行わせません。
- 承認と記録。 誰が確認し、誰が承認したかを残します。
- 入力する情報の線引き。 マイナンバーや健康に関する情報など、AIに入力しない情報を先に決めます。
税務調査では、帳簿の数字がどの資料から、どのように作られたかを説明できることが大切です。AIを使っても、元資料・処理の手順・確認の記録をたどれる状態にしておきます。この考え方はAIで税理士はなくなるのかでも触れています。
最初の1業務の選び方
次の5項目に当てはまる数が多い業務から始めます。
| 確認する項目 | 当てはまる例 | 当てはまらない例 |
|---|---|---|
| 毎月くり返し、件数がある | 毎月届く数十枚の請求書 | 年に1回だけの作業 |
| 入力と出力の形が決まっている | 決まった項目の一覧表 | 毎回内容の違う報告書 |
| 出力を原本と照合できる | 請求書の金額・日付 | 根拠資料のない見込みの数字 |
| 扱う情報を管理できる | 会社で契約した環境で扱う取引先名・金額 | マイナンバー、健康に関する情報 |
| 担当者と確認者が決まっている | 作成は担当者、確認は上長 | 誰が確認するか決まっていない |
始めるのは1部署・1業務からにします。複数の業務を一度に変えると、誤りが出たときに、どこで起きたのかを特定しにくくなるためです。
当事務所でのAIの使い方
当事務所でも、判断の前の作業にAIを使っています。
- 監査調書の更新:前期のExcel調書を当期用に更新する作業を、フォルダを直接扱えるAIに任せています。判断が必要な箇所は「要確認」として残させ、手順は指示ファイルに書いて、うまくいかなかった点を直しながら使っています(監査調書のロールフォワードをAIに任せてみた)。
- 事務所内の資料と画面の整理:記事のサムネイル画像の統一、Google Driveのフォルダ構成の見直し、毎朝の予定確認の画面づくりにAIを使いました(生成AIで仕事のキャパシティを広げる)。
いずれも、AIに渡すのは作業のルールと必要な範囲の情報です。税務・会計の判断と公開の判断は、公認会計士・税理士である私が行います。お客さまの業務でも、AIに任せる範囲と人が確認する範囲を先に決めてから始めます。
自社で始めるときの進め方
当事務所のAI導入支援では、1部署・1業務を対象に、標準8週間で次のように進めます。
- 第1〜4週:今の作業の流れを整理し、AIの設定、業務用の指示ひな形、出力の様式を作ります。
- 第5〜6週:通常・例外を含む代表10ケースで試し、原本と照合します。担当者へ操作を引き継ぎます。
- 第7〜8週:担当者が実際に使い、迷った点や例外をもとに見直します。
完了時には、業務フロー、指示のひな形、確認チェックリスト、操作マニュアルが、会社で再利用できる保存先に残ります。料金・標準範囲はAI導入支援の料金でご確認ください。
よくあるご質問
AIに詳しい社員がいなくても始められますか?
始められます。最初に必要なのは、AIの知識よりも、今の作業の流れと、どの資料をどう確認しているかが分かる担当者です。指示のひな形と操作マニュアルを用意し、同じ手順で繰り返せる形にします。
どのAIサービスを使えばよいですか?
会社として契約・管理できるサービスを選び、入力したデータの学習への利用の有無、保存、管理者の権限を確認します。サービスの内容や規約は変わることがあるため、導入時点の規約で確かめます。プランの違いは日税連のAI・クラウド活用ガイドラインの記事でも整理しています(税理士事務所向けの記事ですが、プランの比較は会社にも当てはまります)。
freeeを使っていなくても相談できますか?
できます。対象の業務と、今使っている会計ソフト・表計算ソフト・保存先を伺い、その環境で使える方法を検討します。会計ソフトの見直しもあわせて考える場合は、freee導入支援もご案内します。
どのくらい作業時間が減りますか?
業務の内容、資料の状態、例外の多さによって変わるため、一律にはお約束できません。導入支援では、導入前後の作業時間と、手で直した箇所・要確認になった件数を記録し、効果と残った課題を確認します。
税務顧問の契約がなくても依頼できますか?
できます。AI導入支援は税務顧問とは別のサービスです。すでに顧問契約がある場合は、現在の支援範囲と重なる部分を確認してお見積もりします。
最初の1業務を、一緒に選びます
「どの業務からAIを使えばよいか分からない」という段階でもご相談いただけます。初回相談では、困っている作業、使っている会計ソフト・表計算ソフト・保存先、担当者の人数をお聞きします。資料をお送りいただく必要はありません。支援範囲・成果物・料金は着手前にご案内します。