AIの試作品が動いても、担当者が使う手順に組み込まれていなければ、日々の仕事には残りません。始め方、確認方法、止まったときの対応、保存先を、実際に使う人へ引き継ぐことが必要です。
「説明を受けたときはできた」「作った人しか使えない」「確認に時間がかかり、元のやり方へ戻った」。このようなときは、担当者の意欲だけで原因を決めず、作業のどこで止まっているかを見ます。
この記事では、経理・総務の1業務を対象に、導入後の見直しと引継ぎの確認項目を紹介します。
1.使われない原因を、作業の位置で切り分ける
最初に、担当者へ実際の作業を一度進めてもらいます。「使いやすかったか」だけでなく、どこで迷い、何を確かめたくなるかを確認します。
| 止まる位置 | 確認すること | 見直しの例 |
|---|---|---|
| 作業を始める前 | 対象資料・保存先・開始する時期が分かるか | 入力資料の条件と保存場所を決める |
| AIへ指示するところ | どの指示を使い、何を差し替えるか分かるか | 指示の固定部分と入力欄を分ける |
| 出力を受け取ったところ | 正しいか、不明点があるか確認できるか | 原本への参照と確認欄を付ける |
| 例外が出たところ | 続けてよいか、誰に確認するか分かるか | 停止・保留・確認先を明記する |
| 完了した後 | 保存・承認・次の担当者への連絡が分かるか | 完了条件と引継ぎ先をそろえる |
例えば、出力した表に元資料の参照がなく、担当者が一から探し直しているなら、必要なのは操作説明の追加だけではありません。出力様式そのものに、ファイル名や行番号などの参照を持たせる見直しが考えられます。
2.マニュアルは、実際の担当者が使う順番で残す
AIの機能一覧よりも、「この仕事をどう進めるか」を短くまとめます。使う画面や設定は変わることがあるため、会社で管理する手順の保存先と更新担当も決めます。
| マニュアルに残す項目 | 記載する内容の例 |
|---|---|
| 開始前の確認 | 対象期間、必要な資料、入力してよい範囲 |
| 操作 | 使う環境、指示ひな形、入力・出力の保存場所 |
| 結果の確認 | 件数・合計・原本・未確認事項の確認順 |
| 例外対応 | 空欄・重複候補・読取り不明が出た場合の扱い |
| 完了と連絡 | 承認者、保存するもの、次の担当者へ伝える内容 |
ログイン情報やパスワードは、操作説明の文章や指示ひな形へ書き込まず、会社で決めた方法で管理します。資料の入力条件については、経理で生成AIを使う前に決める社内ルールと合わせて整理してください。
3.例外を「担当者の勘」に残さない
通常の資料で動いても、項目が空欄、様式が違う、同じような資料が二つある、といった場面で止まることがあります。AIに補完させるのか、人の確認へ回すのかを曖昧にしません。
- 必須項目がないときは、未記載として残し確認する。
- 同じ番号や似た明細があるときは、重複候補として原本を比べる。
- 読取りに自信がないときは、推測で確定しない。
- 対象外の資料が混ざったときは、そのまま次の工程へ流さない。
- 会計登録、支払、対外送信へ進む前に、定めた人の承認を通す。
これは例外対応の設計例です。会社ごとの業務・取引・契約に応じて確認項目を決めます。「AIが要確認と表示しなかったので正しい」と判断せず、担当者が行う照合を残します。
デジタル庁の生成AI技術検証でも、具体的な利用場面とテストケースが公表されています。自社でも、何を試したか、何が未確認かを残しておくと、見直す対象を共有しやすくなります。
4.引継ぎは、担当者が自分で完了できるかで確かめる
説明する人が操作を代わってしまうと、担当者がどこで迷うか分かりません。担当者がマニュアルに沿って、入力資料の準備から確認・保存まで進め、説明する人は止まった位置を記録します。
| 確認場面 | 引継ぎ時に見ること |
|---|---|
| 通常の資料 | 必要な結果を作り、原本と照合して保存できる |
| 不足・不明がある資料 | 推測で進めず、保留と確認先を示せる |
| 修正が必要な結果 | 元資料を確認し、修正後に再確認できる |
| 作業の再開 | 前回の保存物と未確認事項を見つけられる |
担当者が迷った箇所は、その場の口頭説明だけで終わらせず、ひな形・確認表・マニュアルへ反映します。引継ぎ後に試用する期間も設け、実際の作業で出た問題をまとめて直します。
当事務所の初期導入は標準8週間で、操作の引継ぎ後に担当者の試用と最終見直しを行う構成です。対象業務、代表10ケース、成果物などの標準範囲と完了時の状態を事前に確認します。
5.支援終了後に会社へ残るものを確認する
外部の支援が終わった後も、会社が利用できる契約・権限・保存先で運用します。特定の担当者や支援者の個人アカウントだけに、手順や成果物が残る状態を避けます。
- 利用するAI・クラウドの契約者と管理者。
- 担当者・確認者の利用権限。
- 最新の指示ひな形・出力様式・マニュアルの保存先。
- 試した資料の範囲、確認結果、残っている課題。
- 不具合や担当者交代があったときの連絡先・見直し担当。
「納品済み」の一言だけではなく、会社で何を引き取り、何を続けて使えるかを確認します。AI導入支援で手元に残る成果物の見本も掲載しています。
6.導入後の見直しは、変更を一つずつ記録する
使われない原因を直す際は、指示、出力様式、対象資料を一度に大きく変えず、変更した内容と結果を記録します。運用開始後に資料の様式や件数が変わった場合も、以前の試行結果だけで処理を広げないようにします。
| 記録すること | 例 |
|---|---|
| 起きたこと | 原本を探す時間が長く、確認が終わらない |
| 変更したこと | 出力表へ元ファイル名と対象行を付けた |
| 確認したこと | 担当者が対象の資料へ戻り、内容を照合できた |
| 残る課題 | 様式が違う資料は、次の試行対象として保留した |
上表は説明用の架空例です。実際の見直しでは、作業時間と確認・手直しの変化も記録します。AI導入の費用対効果の測り方と合わせると、続ける範囲を判断しやすくなります。
まだ導入前の方は、最初の1業務を選ぶ手順からご覧ください。すでに試作品がある場合は、困っている工程と現在の手順を整理するところからご相談いただけます。対応範囲と料金は、着手前に確認します。
よくあるご質問
マニュアルを作れば、AIは定着しますか?
マニュアルだけで定着するとは限りません。実際の担当者が操作し、確認・例外対応・保存まで進められるかを試します。迷う箇所は、手順だけでなく指示ひな形や出力様式も見直します。
一度説明したのに、元の作業へ戻ってしまいました。
入力資料をそろえる段階、出力の確認、例外対応など、止まる位置を確かめます。確認や手直しの負担が増えている場合は、対象を絞る、原本への参照を付けるなど、作業の流れから見直します。
担当者が交代するときは、何を引き継ぎますか?
利用環境と権限、最新の手順・ひな形・保存先、確認・承認の分担、既知の例外と残課題を引き継ぎます。新しい担当者が通常の資料と例外を含む資料で操作できるかも確認します。
初期導入の後も、継続契約が必要ですか?
当事務所の継続支援は任意です。初期導入だけの依頼も可能です。継続を希望する場合は、導入済み業務の見直し範囲・時間・料金を確認し、初期導入とは別に契約します。
参考資料
- デジタル庁「行政における生成AIの適切な利活用に向けた技術検証」。本記事の引継ぎ表・見直し例は、当事務所が業務の整理方法として作成したものです。