AI導入前の業務棚卸しでは、業務名の一覧よりも「資料を受け取ってから、確認して保存するまで」の工程を見えるようにします。 どの製品を使うかは、その後に考えます。
「毎月の集計に追われる」「資料がなかなか集まらない」といった悩みでも、時間を使う原因は、転記、問い合わせ、確認待ち、やり直しで異なります。この記事では、最初の相談に持っていける程度の棚卸し表を、架空の業務例で作ります。
1.一つの締め作業から、前後の流れをたどる
会社のすべての業務を一度に調べる必要はありません。直近の月次集計、請求書の確認、入社時の案内など、一つの仕事を選びます。担当者が記憶だけで説明しにくい場合は、最近の作業履歴や、使った表の種類を手掛かりにします。
| 工程 | 書き出すこと | 月次集計の架空例 |
|---|---|---|
| 受け取る | 誰から、何を、いつ受け取るか | 営業所から月次の売上表を受け取る |
| そろえる | 列・名称・形式をどう合わせるか | 営業所名、品目、対象月の列をそろえる |
| 作る | どの表や文書を作るか | 営業所別の集計表を作る |
| 確認する | 何と照合し、誰が確かめるか | 元表の件数・合計と比較する |
| 完了する | 保存先と、承認・報告の方法 | 確認済みの集計表を共有フォルダへ保存する |
ここまでを一つの業務として書くと、「集計」だと思っていた負担の多くが、資料の催促や列の修正にある、といった違いを見つけやすくなります。
2.実作業・待ち時間・手戻りを分ける
経過時間だけでは、改善する工程を選びにくくなります。担当者が作業する時間、他の人の返答を待つ時間、修正し直す時間を分けて記録します。最初は厳密な計時より、どこで止まるかをつかむことが目的です。
| 記録する欄 | 記入例 |
|---|---|
| 作業する時間 | 受領した表を開き、列をそろえる作業 |
| 待っていること | 未提出の営業所へ確認し、表が届くのを待つ |
| 手戻りの原因 | 対象月が違う、行が重複する、必要な列がない |
| 確認に使う資料 | 元の売上表、提出状況の一覧 |
| 完了の条件 | 全営業所の対象月・件数・合計を確認して保存する |
例えば提出待ちが主な原因なら、AIによる転記より、提出先の統一や未提出一覧の整備が先かもしれません。手戻りが多いなら、入力様式や確認する項目をそろえることから始めます。
3.棚卸し表には「入力・出力・確認・例外」を残す
担当者以外の人にも伝わるよう、次の欄を用意します。実名や取引情報を入れなくても、資料の種類と流れは説明できます。この表は当事務所の説明例であり、特定の製品の必須様式ではありません。
| 項目 | 記入する内容 |
|---|---|
| 業務と頻度 | 月次集計、資料依頼、定型案内などの名称と発生時期 |
| 入力元 | ファイルの種類、置き場所、作成する部署 |
| 完成形 | 必要な列・項目が分かる表や文書の見本 |
| 確認方法 | 原本、件数、合計、対象期間、確認する人 |
| 例外 | 未提出、空欄、重複、形式違い、判断待ち |
| 変更できない条件 | 締切、承認手順、利用可能な環境、保存ルール |
入力元と完成形を説明できない場合は、その欄を「未整理」として残します。無理に埋めてから相談する必要はありません。未整理の箇所自体が、最初に扱う課題になります。
4.工程ごとに、整理・既存機能・AIを検討する
棚卸しの結果は、すべてAI化するための一覧ではありません。入力ルールをそろえる、既存ソフトの集計や取込み機能を使う、定型操作を自動化する、AIで文章や不揃いな資料を整理する、といった選択肢を並べます。
IPAのAI導入パターンには、文書作成・確認、問い合わせ対応などがあります。自社で使う場合は、その機能が業務のどの工程に合うかを確認します。AI・RPA・Excelの使い分けでは、工程ごとの比較を紹介しています。
候補を絞る際は、繰り返し発生し、完成形を説明でき、結果を人が確かめられる工程から試す方法があります。選び方の全体像は中小企業のAI導入の始め方をご覧ください。
5.試行へ進む前に、範囲を一文にする
棚卸し表ができたら、最初の対象を「何から何を作り、誰が何を確認するか」の一文にします。例えば「営業所の売上表を共通の列へそろえて集計し、担当者が元表の合計と照合する」です。
これに、対象期間、扱う資料の範囲、含めない工程を添えます。試行前後の比べ方はAI導入の費用対効果の測り方、試す条件は試行・検証の確認表へつなげます。
当事務所の料金と標準範囲、業務フロー・確認票などの成果物見本も参考に、自社で整理する範囲と支援を依頼する範囲を分けていただけます。
よくあるご質問
会社全体の業務一覧が必要ですか?
最初は一つの部署の、一つの締め作業や繰り返し業務で構いません。その業務の前後に何があり、誰の確認で終わるかを整理します。
時間を正確に測れていません。
まず担当者が作業している工程、待っている工程、やり直す工程を分けます。試行の比較に使う時間は、対象と完了地点を決めた後に同じ方法で記録します。
紙とExcelが混在していても整理できますか?
資料の種類と保存先を分け、どの工程で紙から表へ移しているかを書きます。読み取りの前に、提出方法や資料の整理を見直すこともあります。
棚卸し表に機密情報を記載する必要がありますか?
初回の整理は、資料の種類、項目名、工程、担当する役割の説明で進められます。原資料を共有する場合は、取扱条件と共有方法を先に確認します。