税務・確定申告
夜職の税金、よくある7つの思い込み|「引かれているから大丈夫」が危ない理由
「税金はお店が引いてくれているから大丈夫」
「現金でもらった分までは分からないはず」
夜職の方からの相談では、こうした思い込みから申告をしないまま数年が過ぎていた、というケースが少なくありません。
結論からいうと、夜職の税務リスクの多くは「知らなかった」「みんなそうしている」から始まります。 後から申告漏れが分かると、本来の税金に加えて加算税や延滞税がかかり、住民税や国民健康保険料にも影響します。
この記事では、よくある7つの思い込みと、そのリスクを順に整理します。申告の要否そのものの確認方法は、夜職の確定申告|天引きされていても、申告は必要?で解説しています。
誤解1:「お店が税金を引いているから、申告しなくていい」
報酬から差し引かれている税金は、多くの場合、1年間の税金を精算した結果ではありません。
ホステス等に支払う報酬の源泉徴収は、報酬額から「5,000円×計算期間の日数」を差し引いた残りに税率を掛けて計算します。つまり、引かれている金額はあくまで前払いの概算です。1年間の収入・経費・控除を集計して、税額との過不足を精算するのが確定申告です。国税庁「ホステス等に支払う報酬・料金」
精算の結果、追加で納める場合もあれば、還付を受けられる場合もあります。どちらになるかは、申告しなければ確定しません。
誤解2:「現金でもらった分は、税務署には分からない」
現金で受け取った報酬も、所得税の収入です。受け取り方で課税の有無が変わることはありません。
お店は、誰にいくら支払ったかを帳簿に残しています。お店への税務調査で支払先を確認し、そこから個人の申告状況を確認することは珍しくありません。振込か現金かを問わず、支払いの記録はお店の側に残ると考えてください。
また、預金口座への入金や、マンション・車などの大きな買い物をきっかけに、収入との釣り合いを確認されることもあります。
誤解3:「掛け持ちや短期の店は、少額だから関係ない」
複数のお店で働いている場合、1店ごとの金額は少なくても、合計すると申告が必要な水準になることがあります。
給与として受け取っている場合も、2か所以上から給与を受けていると、確定申告が必要になる場合があります。「年末調整をしてもらった店がある」ことは、ほかの店の収入まで精算済みという意味ではありません。国税庁「給与所得者で確定申告が必要な人」
短期間だけ在籍した店、体験入店、辞めた店の分も含めて、1年分を集計することが出発点です。
誤解4:「お客さんからのプレゼントは、税金とは関係ない」
お客さんから受け取った現金やブランド品などは、誰から、どのような経緯で受け取ったかによって、税金の扱いが変わります。
- 個人から受け取った場合は、贈与税の対象となる場合があります。贈与税には年1,100千円の基礎控除があり、1年間に受け取った合計額で判定します。国税庁「贈与税がかかる場合」
- 法人から受け取った場合は、贈与税ではなく所得税の対象です。国税庁「贈与税がかかる場合」
- 仕事の対価として受け取ったと認められるものは、プレゼントという名目であっても報酬の一部として扱われることがあります。
高額なものや継続的に受け取っているものは、「もらいもの」として済ませず、受け取った日・相手・内容を記録しておくことをおすすめします。
誤解5:「美容やファッションの費用は、全部経費になる」
経費の話をする前に、まずお店からのお金を「給与」と「報酬」のどちらで受け取っているかを確認してください。明細や源泉徴収票の表題、契約書で確認できます。どちらか分からない場合の見分け方は、夜職の確定申告|天引きされていても、申告は必要?で解説しています。
給与として受け取っている場合:自分で経費を差し引くことはできません
給与の場合、美容院代や衣装代を自分で集計して差し引くことは、原則としてできません。領収書をいくら集めても、給与からは経費として引けないと考えてください。
その代わりに、収入金額に応じて自動的に決まる「給与所得控除」が差し引かれます。これが、会社員と同じく、給与で働く人の経費に相当する部分です。国税庁「給与所得」
一定の支出が給与所得控除額の2分の1を超える場合に使える「特定支出控除」という制度はありますが、対象となる支出の範囲が限られ、勤務先の証明も必要です。美容・衣装代を広く差し引ける制度ではありません。国税庁「給与所得者の特定支出控除」
報酬として受け取っている場合:仕事に必要な費用だけが経費になります
報酬の場合は、1年間の報酬から、その報酬を得るために直接必要だった費用を必要経費として差し引けます。ただし、私生活でも使うものは、そのまま全額を経費にはできません。
私生活と仕事の両方に関係する支出は、業務に直接必要な部分を明確に区分できる場合に限り、その部分を必要経費にできます。国税庁「必要経費の知識」
美容院代、ネイル、衣装、タクシー代、スマホ代などは、仕事での必要性と私用の割合を説明できるかがポイントです。「インターネットで全部経費になると見た」という理由で計上すると、調査で否認されたときに説明がつきません。
誤解6:「何年か経てば、昔の分は大丈夫」
税務署が申告内容を是正できる期間は、通常は法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。申告していない年についても、同じように過去にさかのぼって課税されることがあります。
さかのぼる期間の考え方は、法人の税務調査は何年分さかのぼる?でも解説しています(法人向けの記事ですが、期間制限の考え方は個人の所得税と共通する部分があります)。
申告していなかった場合、本来の税金に加えて次の負担が生じます。国税庁「確定申告を忘れたとき」
| 状況 | 無申告加算税の割合 |
|---|---|
| 税務調査の通知を受ける前に、自主的に申告した場合 | 5% |
| 税務調査を受けて申告した場合など | 15%(500千円超3,000千円以下の部分は20%、3,000千円超の部分は30%) |
このほか、納付が遅れた日数に応じて延滞税がかかります。収入を隠す行為があったと判断されれば、さらに重い重加算税の対象となります。
表のとおり、調査の前に自分から申告するかどうかで、負担は大きく変わります。
税金だけでなく、社会保険料にも跳ね返ります
後から所得が確定すると、所得税だけでなく、所得をもとに計算する住民税や国民健康保険料も見直され、さかのぼって請求されることがあります。
また、国民健康保険料には、所得が一定以下の世帯の保険料を軽くする仕組みがありますが、世帯に所得を申告していない人がいると、この軽減を受けられません。 収入が少ない年でも、申告していないことで保険料が高くなる場合があります。大阪市「保険料の軽減・減免」
国民年金も、保険料の免除や納付猶予を申請する際に前年の所得で審査します。所得が確認できないと、本来は使えたはずの免除を受けられず、未納のままになることがあります。未納期間があると、将来の老齢年金が少なくなるだけでなく、病気やけがで障害が残ったときの障害年金を受け取れないおそれもあります。日本年金機構「国民年金保険料の免除制度・納付猶予制度」
誤解7:「申告していなくても、生活には困らない」
確定申告をしていないと、住民税の課税証明書などで、実際の収入を証明できません。
その結果、次のような場面で困ることがあります。
- 賃貸物件の入居審査
- 住宅ローンや自動車ローン、クレジットカードの審査
- 保育園の入園手続き
- 夜職から昼の仕事へ移る際や、将来開業する際の収入証明
なお、所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告が必要となる場合があります。大阪市「市民税・府民税・森林環境税に関するQ&A」
心当たりがあれば、早めに整理を
ここまでの7つのうち、ひとつでも当てはまるなら、まずは過去の収入を整理するところから始めましょう。
用意しておくとよいものは次のとおりです。
- 各店の報酬・給与の明細、源泉徴収票
- 振込履歴、現金で受け取った金額のメモ
- 仕事で使った費用の領収書
- 過去に申告した年があれば、その控え
資料がそろっていなくても構いません。何年分を、どの順番で申告するか、足りない資料をどう補うかを一緒に確認します。
大阪市福島区の岡田健志公認会計士・税理士事務所では、夜職の方の確定申告や、過去の申告漏れの整理についてご相談を受け付けています。ご相談内容は税理士の守秘義務のもとで取り扱います。
※この記事は、国内に居住する個人の所得税・復興特別所得税を中心とした一般的な説明です。個別の税額や申告の要否、加算税の割合は、対象年、契約・勤務の実態、ほかの所得、申告の経緯などを確認して判断します。