税務・確定申告
医療費控除で保険金・高額療養費はどう引く?入院給付金の計算例
公開:2026年11月3日 / 執筆:公認会計士・税理士 岡田健志
2026年分の通常の医療費控除について、2026年11月3日に確認できた国税庁の公表資料に基づいて解説します。
入院や手術で医療費を支払い、健康保険から高額療養費、生命保険会社から入院給付金を受け取った場合、医療費控除はどのように計算するのでしょうか。
結論からいうと、医療費を補填する保険金などは、給付の対象となった医療費から差し引きます。 ただし、受け取った金額がその医療費を上回っても、余った分を別の医療費から差し引く必要はありません。
この記事では、高額療養費や入院給付金の扱いを、家族の医療費を含む例で確認します。
医療費控除で差し引く保険金とは
通常の医療費控除は、その年に自分が支払った、自分または生計を一にする配偶者・親族の対象医療費から、医療費を補填する保険金などと、一定の基準額を差し引いて計算します。
医療費控除額 = 対象医療費 − 対応する医療費を補填する保険金など − 基準額
基準額は、10万円と、その年の総所得金額等の5%のいずれか少ない金額です。計算結果が0円以下なら控除額はなく、控除額の上限は200万円です。
差し引くものには、例えば次の給付があります。
- 健康保険などから支給される高額療養費
- 生命保険契約などに基づく、入院費用を補填する入院給付金
- 出産費用を補填する出産育児一時金
- 交通事故の治療費を補填するために受け取った損害賠償金
一方、健康保険などの傷病手当金・出産手当金は、医療費を補填する金額には該当しないため、医療費から差し引きません。給付金の名称だけで決めず、支給通知や契約内容で給付の目的を確認しましょう。
根拠:国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき、国税庁 所得税の基礎知識・第5章。
受け取った保険金を家族全員の医療費から一律に引かない
差し引くのは、その給付の目的となった医療費を限度とします。入院に対する給付金なら、まずその入院に対応する対象医療費を確認します。差し引ききれない分があっても、別の病気の医療費や家族の医療費からは差し引きません。
同じ入院について高額療養費と入院給付金の両方を受け取る場合も、それぞれがどの費用を補填するものか確認し、対応する医療費と突き合わせます。
計算例:入院給付金が入院費を上回った場合
次は架空の例です。金額はいずれも、その年に自分が支払った通常の医療費控除の対象額とし、家族は自分と生計を一にしているものとします。
| 内容 | 金額 |
|---|---|
| 本人の入院に係る対象医療費 | 15万円 |
| 上記の入院に対応する入院給付金 | 20万円 |
| 家族の別の治療に係る対象医療費 | 18万円 |
入院給付金20万円のうち、差し引くのは入院に係る医療費15万円までです。残る5万円を家族の治療費から差し引くことはありません。
本人の入院分:15万円 − 15万円 = 0円 家族の治療分:18万円 − 0円 = 18万円 補填後の医療費:0円 + 18万円 = 18万円
総所得金額等が200万円以上で、基準額が10万円の場合、医療費控除額は 18万円 − 10万円 = 8万円です。ここでは他の医療費や補填金はないものとしています。
医療費控除額8万円が、そのまま8万円の還付になるわけではありません。控除は所得から差し引く金額であり、実際の所得税の還付や納付額は申告全体で決まります。
根拠:国税庁 No.1120 医療費を支払ったとき(補填額を差し引く限度)。
高額療養費を窓口で反映した場合は二重に引かない
高額療養費は、後日支給される場合と、一定の手続により医療機関の窓口での支払いが自己負担限度額までとなる場合があります。領収書や支給通知を見て、実際に支払った金額と、後から受け取る補填額を確認します。
例えば、対象医療費について、窓口で実際に20万円を支払い、後から高額療養費5万円を受け取った場合は、対応する医療費から5万円を差し引きます。
これに対し、窓口で既に高額療養費相当額が反映され、対象医療費として実際に15万円を支払い、その分について後日の給付がない場合は、15万円から同じ5万円をもう一度引きません。別の保険金などがある場合は、その内容を別途確認します。
医療費通知の金額が、助成や実際の支払額を反映していないこともあります。通知だけで確定せず、領収書や支給通知と照合しましょう。
保険金の金額が申告時に決まっていないとき
確定申告書を提出する時点で、受け取る補填金の額が確定していない場合は、見込額を対応する医療費から差し引いて計算します。請求先や支給予定の資料を確認し、どのように見積もったか分かるようにしておきましょう。
後日、確定額が見込額と異なる場合は、申告内容への影響を確認します。税額を少なく申告していた場合は修正申告、税額を多く申告していた場合は更正の請求などにより訂正します。補填額の差がそのまま税額の差になるとは限りません。給付の対象となった医療費の限度や、申告全体の税額を確認してください。
根拠:国税庁 保険金などの補てん金が未確定の場合、国税庁 確定申告を間違えたとき。
明細書やe-Taxに入力する前の確認順
- 医療費の支払年を確認する:診療を受けた日だけでなく、実際に支払った年を確認します。
- 医療を受けた人と支払った人を確認する:自分が支払った、自分または生計を一にする配偶者・親族の対象医療費を整理します。
- 給付金と医療費の対応を確認する:支給通知や保険契約を見て、どの医療費を補填する給付か整理します。
- 窓口負担と後日の給付を照合する:既に窓口で反映された金額を重ねて差し引かないようにします。
- 医療費通知・領収書・入力内容の重複を確認する:医療費通知やマイナポータル連携の情報を使う場合も、実際の支払額と給付額を確認します。
国税庁の2025年分の案内では、マイナポータルから取り込んだ医療費通知情報に補填金がある場合、医療費控除の一覧から補填額を追加する手順が示されています。2026年分の画面と操作は、公表後に確認してください。
医療費控除の明細書の書き方では、医療費通知と領収書を分けて整理する手順を説明しています。医療費整理ノートも、資料整理に使えます。ノートは控除額を自動確定するものではなく、出力CSVは国税庁の医療費集計フォームとは別形式です。
根拠:国税庁 マイナポータル連携した医療費通知情報に補てんされる金額がある場合。
よくある質問
入院給付金が医療費より多いと、医療費控除は受けられませんか?
その入院に係る対象医療費からは給付の対象となった医療費を限度に差し引きますが、引ききれない分を別の医療費からは差し引きません。ほかの対象医療費があれば、基準額を超えるか確認してください。
高額療養費は、翌年に受け取る予定でも差し引きますか?
対象の医療費を補填する高額療養費であれば、翌年に受け取る予定でも、医療費を支払った年分の計算で考慮します。申告書提出時までに金額が確定しない場合は、見込額を差し引きます。
傷病手当金も差し引きますか?
健康保険などから支給される傷病手当金は、医療費を補填する金額には当たらないため差し引きません。入院給付金などとは給付の内容が異なります。
医療費が10万円以下なら、保険金を確認する必要はありませんか?
あります。総所得金額等が200万円未満の方は、基準額が10万円より小さくなります。医療費から対応する補填金を差し引いた後に、その基準額を超えるか確認します。詳しくは医療費控除は10万円以下でも受けられる?をご覧ください。
自分に合った方法で申告を進めましょう
まずは領収書、医療費通知、高額療養費や保険金の支給通知をそろえ、給付金と対応する医療費を分けてみましょう。
- 自分で整理・申告する:医療費整理ノート、スマホで医療費控除を申告する手順、自分で確定申告をする手順
- 迷う点だけ相談する:相談の料金を見る、確定申告について相談する
- 事業所得等の申告を依頼する:対応範囲と料金を確認する
給与と所得控除のみの申告は、ご自身で進めるための記事や、迷う点についてのスポット相談をご案内しています。初回相談(30分)は無料、個別の論点を扱うスポット相談(60分)は11,000円(税込)です。対応範囲と料金は事前にご案内します。
事業所得等の申告依頼は、準備された帳簿・集計を基本としています。資料整理や記帳修正などが必要な場合は、資料と作業量に応じて個別にお見積りします。
主な根拠:所得税法第73条、所得税法施行令第207条、所得税基本通達73-8・73-9・73-10。国税庁 医療費を支払ったとき、入院費用の具体例、保険金などの補てん金が未確定の場合。