税務調査・帳簿データの提出
税務調査の前に帳簿データの提出を求められたら?2026年10月の取扱い変更と確認事項
税務署から「実地調査の前に、会計ソフトのデータや帳簿を提出してほしい」と連絡を受けたら、まず依頼の対象・期限・提出方法と、調査通知・事前通知の状況を確認してください。事前にデータを求められたからといって、その場で範囲を確かめずに送る必要はありません。一方で、提出依頼を一律に無視してよいわけでもありません。
国税庁は、2026年10月に「税務調査等における帳簿等データの提出依頼に関する取組等について」を掲載し、全16問のQ&A(令和8年10月)を公表しました。この記事では、実地調査の前に行われる提出依頼を中心に、取扱いと対応時の確認事項を整理します。
何が変わったのか――原則は「事前通知後」に依頼
国税庁は、納税者等の理解と協力の下で、実地調査の前に帳簿等データの提出を依頼する取組を行っています。事前に一部を確認し、調査の効率化や、実地調査に伴う拘束時間の短縮につなげることが目的です。この取組自体は2026年7月以降に行われており、10月から新たに全件の提出が義務化されたわけではありません。国税庁の取組ページ、四国税理士会掲載の「国税庁からのお知らせ」
今回変更されたのは、実地調査を予定している場合の提出依頼の原則的な時期です。従来の「調査通知後」から「事前通知後」へ変更されました。この取扱いは、2026年10月13日以降に調査通知を実施する実地調査から適用されます。国税庁が調査通知の際に、事前通知後にデータ提出を依頼する予定である旨を説明することも、税理士会に掲載された国税庁のお知らせに示されています。四国税理士会掲載の「国税庁からのお知らせ」
ここでいう調査通知と事前通知は同じものではありません。国税庁の事務運営指針では、日程調整のために納税者の都合を聴く際に調査通知を行い、その後、調査開始日時・場所や対象となる帳簿書類などを事前通知すると説明しています。日付だけを見て「事前通知は済んでいる」と判断せず、どの段階の連絡かを確認してください。国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等」第2章2
事前通知前にも依頼されることはある
原則が事前通知後に変わっても、例外はあります。国税庁は、実地調査に伺う日時の調整に時間を要する場合などには、事前通知に先立って提出を依頼することがあると説明しています。事前通知前の提出依頼も、必要に応じて行う「実地の調査」以外の調査としての質問検査等に当たります。国税庁の取組ページ、国税庁Q&A問2
事前通知前に依頼するデータの範囲について、国税庁Q&A問4は、納税者等に帳簿等データを確認したうえで、調査に必要な範囲に限って依頼するとしています。対象の税目・期間、帳簿やデータの種類が分からない場合は、提出前に担当者へ具体的に確認してください。国税庁Q&A問4
「応じなければ直ちに罰則」でも「自由に拒否できる」でもない
国税庁Q&A問5は、物件の提示・提出の要求に正当な理由なく応じない場合、国税通則法128条の罰則の対象となり得ると説明しています。その一方で、実地調査前のデータ提出依頼に応じないことだけをもって罰則を適用するものではないこと、強権的に求めず、納税者等の理解・協力と承諾を得て実施することも明記しています。国税庁Q&A問5
したがって、対応を即答しにくい事情があれば、依頼の範囲や提出期限、データの安全な受渡し方法を確認し、必要に応じて税理士と相談したうえで担当者に伝えることが大切です。紙での提出や実地調査時の提示を希望する場合も、一方的に方法を決めず、事情を説明して相談してください。国税庁はデータによる事前提出への協力を求めています。国税庁Q&A問6
事前提出と調査開始日・修正申告の関係
オンラインで先にデータを提出しても、それだけで事前通知上の「調査を開始する日時」が前倒しになるわけではありません。国税庁Q&A問7は、初めて事業所等に臨場して質問検査権を行使する日時を、事前通知における調査開始日時としています。ただし、データ提出の依頼自体は質問検査権の行使に当たると説明しています。国税庁Q&A問7
また、事前にデータを提出したという事実だけで、修正申告について「更正があるべきことを予知してされたもの」に当たるとはされません。加算税の取扱いは、調査通知の時期や非違事項の指摘など、個々の事実関係で判断されます。「まだ実地調査前だから加算税はかからない」とも決めつけないでください。国税庁Q&A問8
提出する前に確認しておきたいこと
担当者から依頼を受けたら、次の点をメモし、手元の帳簿・申告書や税理士に共有してください。
- 連絡の位置付け:税務署名、担当者、調査通知・事前通知を受けた日、実地調査の予定。
- 依頼の範囲:対象の税目・期間、必要な帳簿やデータの種類、ファイル形式。
- 期限と方法:提出期限、利用するオンラインツールや受渡し方法、担当者への確認先。
- 提出記録:何を、いつ、どの方法で提出したか。提出したファイルの控えと、元データとの差異の有無。
- 情報の取扱い:国税当局から電子データの管理・保存・消去についてどのような説明を受けたか。
国税庁は、データ提出を依頼する際、電子データの取扱いを説明するとしています。提出された情報は行政文書として管理され、課税処分の証拠として保存が必要なものには通常7年の保存期間を設定する例が示されています。提出した情報が、他の事案の税務調査や行政指導に利用される場合もあるとQ&Aは説明しています。提出範囲と情報の取扱いを確認する理由はここにもあります。国税庁の取組ページ、国税庁Q&A問10・問12
よくある質問
事前通知より前に提出を求められたら、手続違反ですか?
事前通知後の依頼が原則ですが、日程調整に時間を要する場合など、通知前に依頼する例外が示されています。通知前という理由だけで手続違反とは判断できません。まず、依頼の目的・対象範囲・期限を確認してください。国税庁Q&A問2・問4
会計ソフトのデータを丸ごと提出しなければなりませんか?
一律に全データの提出が必要とされているわけではありません。国税庁Q&A問4は、事前通知前の依頼について、調査に必要な範囲に限るとしています。依頼された帳簿・期間・形式を確認し、必要なデータを特定してください。国税庁Q&A問4
税理士に相談してから回答できますか?
相談できます。提出期限が示されている場合は放置せず、税理士への確認に要する時間や提出方法について、担当者にも連絡してください。顧問税理士がいない場合でも、調査対応だけを相談することは可能です。
税務調査の連絡を受けた方へ
岡田健志公認会計士・税理士事務所では、税務調査前の資料確認や税務署からの依頼への対応についてご相談を承っています。最初のご連絡では、税務署からの通知・依頼の内容、対象の税目と期間、提出期限、顧問税理士の有無を、分かる範囲でお知らせください。資料確認や調査立会いなど、実際にお引き受けする業務の範囲と料金は着手前にご案内します。
執筆:岡田健志(公認会計士・税理士)。2026年10月16日時点の国税庁の取組ページ・Q&A、国税庁の事務運営指針、四国税理士会に掲載された国税庁のお知らせを確認しました。個別の提出依頼や加算税の判断は、通知内容と具体的な事実関係によります。