税務・確定申告
次期の役員報酬・役員賞与を決める前に確認すること
次期の役員報酬をいくらにするか。毎月の報酬を増やすか、役員賞与も組み合わせるか。決算が近づくと、来期の支給額を考える機会があります。
そのときは、会社の利益見込み、支払後に残る資金、役員個人の手取りを並べて検討します。さらに、金額を決める時期と、必要な手続きの期限を確認しておくことが大切です。
この記事では、中小の同族会社が金銭で支給する毎月の役員報酬と役員賞与について、次期の計画を立てる順序を整理します。会社法上の手続きは、一般的な株式会社の取締役を想定しています。
1.決算前に準備を始め、改定・届出の予定を確認する
まず、決算月、定時株主総会の予定日、現在の報酬の支給日を確認します。次期の報酬案は、今期の決算見込みと来期の計画が見えてきた段階で検討しておくと、決議や給与計算の準備を進めやすくなります。
毎月の報酬と役員賞与では、確認する期限が異なります。
| 対象 | 税務上、最初に確認すること |
|---|---|
| 毎月の役員報酬 | 定期同額給与に該当する通常の改定は、原則として会計期間開始の日から3か月を経過する日までに行います。改定前・改定後のそれぞれで、定期給与の同額性を確認します。 |
| 役員賞与 | 事前確定届出給与を利用する場合、支給日・支給額を決めたうえで、原則として期限内の届出が必要です。一般的な期限は、決議日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日の早い方です。決議日が職務執行開始日より後なら、1か月の起算日は職務執行開始日になります。 |
根拠:法人税法34条1項、法人税法施行令69条1項1号・4項。国税庁「役員に対する給与」、「事前確定届出給与に関する届出」。
通常改定の時期や届出期限には例外があります。新設法人の設立時に始まる職務に係る事前確定届出給与は、原則として設立の日以後2か月を経過する日が届出期限です。申告期限について税務署長の指定を受けている場合なども、上の表をそのまま当てはめずに確認します。
毎月の報酬を期中に変更するときは、通常改定、臨時改定事由、業績悪化改定事由のどれに該当するかが問題になります。具体的な要件は、「役員報酬の減額はできる?定期同額給与と3つの例外」で解説しています。
2.来期の利益と、会社に残す資金を見積もる
次に、現在の役員報酬を続けた場合の来期の利益を見積もります。売上・粗利益に加え、採用、家賃、外注費などの変化も反映させます。そのうえで、報酬を変えた場合の影響を比較します。
資金繰りでは、毎月の入金・支払予定に、次の項目も入れて確認します。
- 法人税等・消費税などの納付予定
- 借入金の返済予定
- 設備投資や採用に伴う支出
- 入金が遅れた場合や、売上が計画を下回った場合に必要な資金
- 役員報酬・賞与に伴う会社負担の社会保険料
例えば、売上を計上しても入金まで時間がかかる会社では、利益と預金残高の動きがずれます。賞与の支給を予定する月に納税や借入返済も重なるなら、その月までの入出金を見ておく必要があります。
報酬案は「計画どおりに進んだ場合」と「売上や入金が想定を下回った場合」の両方で確認します。どの程度の下振れを見込むかは、自社の受注状況や入金実績から決めます。
3.毎月の報酬と賞与を、支払いを続けられる形にする
毎月の役員報酬は、会社にとって継続的な支出になります。役員個人の生活に必要な手取りも確認しながら、年間を通じて支払いを続けられる月額を考えます。
賞与を組み合わせる場合には、支給予定日の資金を確保できるかを検討します。事前確定届出給与は、あらかじめ決めた時期・金額に従って支給する制度です。届出を済ませていても、実際の支給額が異なると、原則として支給額の全額が損金不算入になります。根拠:法人税基本通達9-2-14。国税庁「事前確定届出給与」。
そのため、「利益が出たら、その時点で賞与額を決める」という計画では、事前確定届出給与の要件を満たせません。賞与を予定するなら、支給額を決める段階で支払原資まで見通しておきます。
複数回支給する場合の判定、届出と支給がずれた場合の取扱い、変更届については、「役員賞与を損金にする『事前確定届出給与』とは?」をご覧ください。
4.会社と個人、両方の税金・社会保険料を比較する
候補となる月額と賞与額ができたら、会社と役員個人の両方で負担を試算します。
会社側では、役員給与を損金に算入できることを確認したうえで、法人税等、会社負担の社会保険料、支払後の資金を見ます。個人側では、所得税・住民税、本人負担の社会保険料を踏まえた手取りを確認します。
厚生年金保険料は、標準報酬月額と標準賞与額を基に計算し、事業主と被保険者が折半します。月額と賞与の組合せを比べる際には、健康保険も含め、加入先の制度・適用時点の料率や上限を反映させます。日本年金機構「厚生年金保険の保険料」。
所得税・住民税は、役員本人のほかの所得や控除によっても変わります。また、報酬変更に伴う社会保険の標準報酬月額の改定には要件があり、報酬を変えた月に保険料が切り替わるとは限りません。年間の負担と、実際に支払う時期の両方を確認します。国税庁「給与所得」、日本年金機構「随時改定(月額変更届)」。
まずは「現在の報酬を続ける案」と「見直し案」を同じ前提で並べると、会社に残る資金と個人の手取りの変化が分かりやすくなります。全社に共通する最適額を置くことはできません。
5.報酬額の根拠と、会社の決議内容を確認する
定期同額給与や事前確定届出給与に該当しても、不相当に高額な部分は損金に算入できません。金額を検討する際には、対象役員の担当業務や責任、会社の業績など、報酬額を説明するための事情を整理します。根拠:法人税法34条2項。国税庁「役員に対する給与」。
会社内部の手続きも確認します。株式会社の取締役の報酬等は、定款に必要な事項を定めていなければ、株主総会の決議によって定めます。根拠:会社法361条1項。
過去の株主総会で総額の上限を決め、個人別の支給額を別途決定している会社では、その両方を確認します。総額の枠内でも、委任に基づいて定めた個人別の支給限度額が問題になる場合があります。国税庁「過大役員給与の判定基準」。
実務上は、対象役員、月額、賞与の有無、支給日、改定を適用する支給分を整理し、決議内容と給与計算・届出内容がつながるようにしておきます。
6.相談前に、今ある資料と希望を整理する
役員報酬の相談では、次の資料があると、支給額と手続きの検討を進めやすくなります。
| 資料・情報 | 主に確認すること |
|---|---|
| 直近の決算書、最新の月次試算表 | 現在の利益水準、決算見込み |
| 来期の売上・経費計画、資金繰り表 | 報酬を支払い続けられるか、賞与支給月の資金 |
| 現在の役員報酬・賞与の支給明細 | 月額、支給日、既に決まっている賞与 |
| 定款、報酬に関する株主総会・取締役会の議事録等 | 決定権限、総額の上限、個人別の支給額 |
| 事前確定届出給与の届出書・付表・提出記録 | 届出済みの内容、対象となる職務執行期間 |
| 決算月、総会予定日、希望する改定時期 | 改定・決議・届出の予定 |
| 役員本人の必要な手取り、ほかの所得・控除に関する情報 | 個人側の負担と生活資金 |
最初の問い合わせでは、決算月、変更したい時期、毎月の報酬と賞与のどちらを検討しているかをお知らせください。詳しい資料は、相談内容に応じてご案内します。
来期の計画がまだ固まっていなくても、現在の実績と見込みから検討を始められます。すでに支給を始めている場合や、決議・届出が済んでいる場合は、その日付も確認します。
役員報酬・役員賞与のスポット相談
当事務所では、役員報酬・役員賞与のスポット相談を承っています。決算月、現在の支給内容、変更の希望を伺い、支給案の税務上の論点と必要な手続きを確認します。
公認会計士・税理士 岡田健志