在庫の動きと発注判断
在庫が増えたら何を見る?回転期間と滞留品の確認方法
決算書の棚卸資産が増えているとき、「売上に備えて積み増した」のか、「売れない在庫が残った」のかで対応は違います。まず、在庫が何か月分の売上原価に相当するかを在庫回転期間で確認し、その後で品目別の滞留へ下ります。
中小企業庁の資料は、在庫回転期間を棚卸資産÷月当たり売上原価で求め、長期化している場合には過剰在庫や滞留在庫の可能性を確認するよう案内しています。中小企業庁「中小PMIガイドライン・在庫管理方法の見直し」
売上高ではなく、原価と同じ基準で比べる
在庫は原価ベースで帳簿に載っています。この記事では、年間売上原価を12で割った月当たり売上原価と、期首・期末の平均棚卸資産を使います。在庫の取得価額と分母の売上原価を対応させるためです。売上高を使う回転期間の算式もありますが、分母が違えば結果は変わります。比較するときは同じ算式を使ってください。
棚卸資産には、商品・製品・原材料・仕掛品などが含まれます。製造業では完成品と仕掛品の動きが違うため、全社合計だけでなく種類別にも確認します。期末在庫の数量・評価単価は、決算日の現物棚卸と在庫台帳の照合で確認します。
架空の2期で回転期間を計算する
次は架空の商品の仕入販売会社の例です。両期とも年間売上原価は3,600万円、各期は12か月、棚卸資産は商品だけ、期首・期末の単純平均で比較します。季節性や製造仕掛品はありません。
単位:万円
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| 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 |
|---|---|---|
| 年間売上原価 | 3,600 | 3,600 |
| 月当たり売上原価 | 300 | 300 |
| 期首在庫 | 300 | 300 |
| 期末在庫 | 300 | 600 |
| 平均在庫 | 300 | 450 |
| 在庫回転期間 | 1.0か月 | 1.5か月 |
計算は平均在庫÷(年間売上原価÷12)です。2025年3月期は300÷300=1.0か月、2026年3月期は450÷300=1.5か月になります。在庫の平均的な保有量が、同じ売上原価に対して増えています。
ただし、「すべての商品が販売まで1.5か月かかった」という意味ではありません。売れ筋と長期滞留品が混ざっていても、合計は一つの値になります。また、期末だけ大量に仕入れた場合は期首・期末平均が期中の実態を十分に表さないことがあります。
品目別の数量と最後に動いた日を見る
全社の回転期間が長くなったら、在庫台帳を品目別に並べます。数量、取得単価、金額、最終入庫日、最終出庫日、次の販売・使用予定を確認し、保管場所もそろえます。中小企業庁の会計活用資料も、名称・数量・単価・金額を一覧化し、商品ごとの滞留期間を見直すことを示しています。中小企業庁「中小企業の会計」の活かし方・在庫管理
表は横にスクロールできます。
| 状況 | 確認すること |
|---|---|
| 受注増に備えた在庫 | 受注の確度、納期、追加調達までの期間 |
| 季節商品 | 前年同時期の販売と残量、次の販売可能時期 |
| 長く動かない商品 | 最終出庫日、販売可能性、代替品の登場 |
| 破損・型落ち品 | 現物の状態、処分・値下げの記録、評価の要件 |
| 同じ商品が複数拠点にある | 拠点間移動と二重計上、欠品拠点への振替 |
品目別に「一定期間売れていない」と分かっただけで、帳簿価額を自動的にゼロにするものではありません。会計・税務の評価は現物の状態、販売予定、処分記録、会社の評価方法を確認します。本文の回転期間は経営管理の指標です。
発注量と資金予定につなげる
滞留品が分かったら、まず発注停止や発注量の見直し、販売方法の変更、他拠点への移動など、商品の状態に合う対応を検討します。一方、在庫を減らし過ぎれば欠品で販売機会を失うため、発注点やリードタイムも確認します。中小機構は、品目ごとの回転期間と仕入水準を合わせて見ることを勧めています。中小機構 J-Net21「資金繰り改善のための財務・資本戦略」
仕入代金の支払は在庫が売れる前に来ることがあります。商品を販売し、売掛金を回収するまでの期間も含めて資金繰り表で確認します。在庫増加は利益と現金の動きに差が出る一因になるため、仕入代金の支払時期と回収時期を分けて確認します。
よくある質問
在庫回転期間は短いほど必ず良いですか?
短縮は資金負担を減らす方向に働きますが、欠品や納期遅れを起こすほど減らすのは適切とは限りません。商品の調達期間、季節性、顧客への納期を合わせて判断します。
売上高で割る資料と数字が合わないのはなぜですか?
この記事は原価ベースの平均在庫と売上原価を使っています。売上高を分母にする算式や期末在庫を使う算式とは値が違います。資料の分子・分母、期間、対象在庫を確認してください。
決算日の棚卸だけで滞留品は分かりますか?
決算日時点の数量・価額は分かりますが、それだけでは品目がいつから動いていないか分かりません。入出庫履歴や最終販売日を加えて確認します。
回転期間を、現物と発注判断へつなげる
月次・四半期ごとに同じ計算方法で全体の変化を見て、伸びたときは品目別の在庫台帳と現物へ下ります。発注担当、営業担当、経理担当が同じ品目と数量で話せるようにすることが先決です。
岡田健志公認会計士・税理士事務所では、在庫台帳と試算表を照合し、回転期間・滞留品・発注と資金予定をつなぐ支援をご案内します。在庫の種類、保管場所、台帳の有無をお知らせください。対応範囲と料金は着手前にご案内します。
執筆:岡田健志(公認会計士・税理士)。資料確認日:2026年10月20日。数値例は架空です。回転期間は集計範囲や季節性によって変わり、個々の在庫の売却可能性を一律に判定するものではありません。