取引先ごとの採算管理
売上が大きい得意先は本当に利益を生む?取引先別の採算の見方
得意先別の売上高を並べると、大口の取引先が目立ちます。しかし、値引き、個別配送、追加作業が多ければ、売上に見合う利益が残っていないことがあります。得意先別採算では、売上からその取引に対応する原価と、個別に発生した費用を分けて確認します。
中小企業庁の事例には、顧客ごとに商品の売上高と材料費・人件費・外注費を毎月集計し、利益の少ない取引の工程を見直した例があります。この記事では、集計の最初の一歩を整理します。中小企業庁「採算可視化の事例集」
「売上が大きい順」と「残る金額が大きい順」を比べる
次は架空の会社の同じ1か月、得意先A・Bとの取引です。売上と原価は税抜で対応させ、配送・個別対応費は得意先へ直接ひも付けられる金額だけを入れています。本社家賃などの共通費は含めません。
単位:万円
表は横にスクロールできます。
| 項目 | 得意先A | 得意先B | 合計 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 600 | 400 | 1,000 |
| 対応する売上原価 | △390 | △240 | △630 |
| 売上総利益 | 210 | 160 | 370 |
| 個別の配送・対応費 | △60 | △120 | △180 |
| 個別費用控除後の貢献額 | 150 | 40 | 190 |
Bの売上総利益率は160÷400=40.0%で、Aの210÷600=35.0%より高いものの、個別の配送・対応費を差し引いた貢献額はBが40万円、Aが150万円です。Bの追加対応の内容と契約条件を確認する価値があります。
この表の「貢献額」は社内管理用の呼び方です。会社全体の営業利益や、Bとの取引をやめた場合の利益をそのまま表すものではありません。共通費や、取引をやめても残る費用は別に確認します。
どの費用を得意先にひも付けるか
請求書・受注番号・案件番号・配送先などを使い、まず直接確認できる費用を集めます。商品の仕入原価、案件の外注費、得意先ごとの運賃、特別な梱包費、値引き、返品、現地対応などが候補です。得意先別の売上と同じ期間の費用を対応させてください。
表は横にスクロールできます。
| 費用の区分 | 集計の考え方 |
|---|---|
| 商品・案件の原価 | 売上と対応する仕入・材料・外注・工数を確認 |
| 得意先固有の費用 | 個別配送、特注対応、返品・保守等を記録から集める |
| 共通費 | 根拠なく各得意先へ均等に割り振らず、別に示す |
担当者の工数を集計していない場合、後から正確な人件費を得意先別に出すことはできません。見積工数を使うなら、実測値ではなく試算値と明記します。配賦基準を変えた月は、前月との比較に注意が必要です。部門別会計の記事
利益が少ない理由を、取引条件へ戻して調べる
個別費用控除後の貢献額が小さい取引では、次を確認します。
- 価格と値引き:契約単価、改定日、数量割引の条件。
- 注文の形:小口・急ぎの出荷が増えたか、追加作業を請求しているか。
- 原価の変化:仕入価格、外注費、歩留まり、実際の工数。
- 回収条件:支払期日と遅れ、売掛金の集中。
- 今後の関係:継続受注、他商品の販売、設備や人員の稼働への影響。
値上げを検討するときは、増えた費用と提供価値、契約条件を整理します。売上の小さい得意先でも高い貢献額や将来の受注につながる場合があります。反対に売上が大きくても、赤字の追加作業を続ける理由にはなりません。
採算と回収リスクを別々に見る
採算が良い取引でも、請求額の回収が遅れていれば資金負担が増えます。得意先別の採算表と、売掛金の年齢分析を並べ、利益額と未回収額を別に見てください。取引先一社への売上・売掛金の集中も確認します。
よくある質問
得意先別の利益が低い先は、取引をやめるべきですか?
数字だけで決めません。取引をやめても残る固定費、他の売上への波及、契約上の義務、価格や業務の見直し余地を確認します。表の貢献額と、取引をやめた場合の利益への影響は異なります。
会計ソフトに得意先別の費用が入っていない場合は?
まず大きな取引先や案件だけ、請求書・仕入・外注・配送の資料で対応関係を作ります。すべての共通費を最初から配賦する必要はありません。どこまで実額、どこから試算かを分けて管理します。
売上総利益率だけを比較すれば十分ですか?
個別配送や追加対応の費用が大きい場合は十分ではありません。架空例のように、売上総利益率の高い得意先でも、個別費用を差し引くと残る金額が小さくなることがあります。
取引先別の数字を、条件交渉へつなげる
まず主要な得意先から、売上・売上原価・直接確認できる個別費用を同じ期間で集計します。数字がそろったら、営業・現場・経理で追加作業や値引きの理由を確認し、価格・受注条件・業務手順を見直します。
岡田健志公認会計士・税理士事務所では、月次試算表と販売・案件データから、得意先別の採算管理を始める支援をご案内します。ご相談の際は、得意先別の売上一覧、案件番号の有無、個別費用の管理方法をお知らせください。対応範囲と料金は着手前にご案内します。
執筆:岡田健志(公認会計士・税理士)。資料確認日:2026年10月20日。表の数値と得意先は架空です。得意先別の社内管理額は、会計上の営業利益や将来の契約判断を一律に示すものではありません。